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２９話 本人の知らぬところで
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2025-07-05 07:00:06♢フィオーレの新たな決意
森の静かな木陰で、フィオーレはふと自分が所属するパーティのことを思い出した。長い間共に冒険を重ねてきた仲間たちの姿が脳裏をよぎる。彼らとの日々は決して悪いものではなかった。むしろ、成功と困難を分かち合い、絆を築いてきた大切な関係だ。だが今、彼女の心には新たな感情が芽生え、胸が高鳴るのを止められなかった。
『そうだわ……あの子の側にいてあげるには……パーティを脱退しなきゃね……』
そう心の中で呟くと、彼女の表情には一瞬のためらいが浮かんだ。しかし、その奥に秘められた感情が次第に溢れ出し、彼女の心を突き動かしたのはレティアの存在だった。『あの子があんなに無邪気に笑っているのに、その実力は圧倒的で……。今まで苦労をしただろうに……。これからは……わたしが面倒を見てあげるし、最大の理解者に……』
レティアの戦闘を見つめたフィオーレは、彼女の力と優しさの奥に潜む強さを目の当たりにし、自分がこれまで見たことのないほどの魅力を感じていた。ただ英雄の娘という肩書きではなく、純粋に彼女自身が持つ輝きに惹かれているのだと、次第に気づき始めていた。『……どうしてこんなに気になるの？ もっと知りたい……もっと近くにいたい……。』
胸の内に芽生えたその気持ちは、単なる憧れではなかった。一途な思いとなり、フィオーレの行動を突き動かしていた。自分自身も冒険者として成功を収めてきたはずなのに、なぜかレティアの隣にいるべき存在は自分だと感じずにはいられない。彼女の心には一つの決断が固まっていた。これまでのパーティを脱退し、レティアのそばにいること。それは自分のキャリアや名声を捨てることになるかもしれない。それでも、フィオーレはその想いに逆らうことはできなかった。
『他の誰かが隣にいるなんて許せない。あの子には、わたしのような可愛らしい存在がふさわしいのよ。』
彼女の内心に広がる対抗心は、レティアを巡るルーシーへの複雑な感情へと結びついていた。フィオーレは杖を軽く握り直し、深呼吸をする。目の前に広がる未来に思いを馳せながら、その瞳は揺るぎない決意に満ちていた。レティアのそばで、彼女の力となることが、フィオーレにとって新たな目標となっていた。
「そうよ。わたしは、あの子を支えるために生きるのよ。これまでの人生はあの子を支えるための試練だったのね……♪」
小さく呟くように口にすると、彼女たちのテントを確認した。 ♢パートナーへの別れフィオーレは、一息ついてから、かつての仲間たちが待つ広間へと歩みを進めた。彼女の表情は穏やかだが、心には揺るぎない決意が宿っている。見慣れた仲間たちの姿を見つけると、フィオーレは小さくため息をつき、杖を軽く握り直した。
「フィオーレ、戻ったのか？ 任務の準備は万端だ。」
パーティリーダーの男、アルヴァンが彼女に声をかける。その声には親しみが込められているが、フィオーレの表情が少し硬いことに気づいて、彼は眉をひそめた。「アルヴァン、みんな……少し話があるの。」
フィオーレは静かに言葉を紡ぎながら、一歩前に進み、仲間たちの視線を集めた。彼女の声には普段の柔らかさとは異なる、真剣な響きがあった。「どうしたんだ、フィオーレ？ 何か問題でもあるのか？」
もう一人の仲間、エレナが心配そうに声をかける。フィオーレは目を閉じ、一瞬言葉を選ぶように考えた後、彼らを静かに見つめて話し始めた。
「私、今日でこのパーティを抜けるわ。」その言葉が広間に響くと、仲間たちは驚きの声を上げた。アルヴァンは目を見開きながら、思わず問い返した。
「はっ！？ なんだって？ フィオーレ、一体どういうことだ？」フィオーレは揺るぎない視線で答えた。
「これまで、本当にお世話になったわ。みんなと一緒に冒険してきた時間は、とても楽しかったわ。でも……今の私には、新しい目標ができたの。私が生きる意味を見つけた気がするのよ。」「新しい目標……？」
エレナが小声で繰り返す。その言葉には戸惑いが混じっている。フィオーレは微笑みを浮かべながら、優しく語り続けた。
「私は、あの子を支えるために進みたい。私の心がそう導いているの。」仲間たちはしばらく言葉を失い、彼女の決意の強さを受け止めようとしていた。アルヴァンがようやく重い口を開いた。
「……分かった。君が抜けるとなると……戦力の低下はかなり痛いが、君の決意がそこまで強いなら、俺たちが止めることはできない。ここで無理に止めても、そんな君に命は預けられない。フィオーレ、君の目標が達成されることを祈るよ。」彼は手を差し出し、最後の握手を求めた。フィオーレはその手をしっかりと握り返し、温かな微笑みを浮かべた。
「ありがとう、アルヴァン。みんなもありがとう。」フィオーレは背を向け、広間を静かに後にした。その歩みは軽やかで、それまでの迷いを振り払ったかのように堂々としていた。彼女の心には、ただ一人の存在——レティアへの想いが強く宿っていた。
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